【ツール2016】衝撃の12ステージ
ツール史に残る大事件が起きた!
始まる前から今日はものすごいステージになるだろうなという期待感はあった。
このステージがいかに注目に値したかというと、
- フランス革命記念日(7/14)
- 歴史あるモン・ヴァントゥでの戦い
- 超級山岳フィニッシュ=山岳ポイント50pt
フランス革命記念日
各地で大々的な催しが開かれ、フランス中が盛り上がる1日。フランス人にとってこの日のステージをとることは何よりの栄誉とされる。さらに歴史あるモン・ヴァントゥということもあり、フランス人でなくても死に物狂いで狙ってくるはず。
モン・ヴァントゥでの戦い
モン・ヴァントゥはツール伝統の山。ただ勾配がきついだけでなく、標高、強風、暑さと選手たちを苦しめる要素が詰まっている。それゆえ差がつきやすい。僅差でひしめいている今大会、ここでモン・ヴァントゥを迎えるのはベストタイミング!
超級山岳フィニッシュ
山岳ポイントはカテゴリと登坂順位によって加算されていくが、フィニッシュ地点が2級以上の山岳の場合、つまり山頂フィニッシュの場合はポイントが倍になる。
通常超級山岳を1位通過すると25ptだが、フィニッシュ地点に設定されている場合は50ptになる。1級以下の山岳でコツコツと稼いでいても、超級山岳1つで大逆転できるようになっているのだ。つまり、これまで山岳賞争いに無縁だった人も、このステージを制すれば一気に争いに加われるということだ。
今大会は多くのステージで下りフィニッシュとなっていて、山頂フィニッシュは4つしかない。たった数個のステージで上位に入るだけで山岳賞をとれるかもしれない。
コース短縮
モン・ヴァントゥはもともと強い風で有名な山だけど、それにしても強すぎる(まともに走れない)風が吹いているために、フィニッシュ地点は6km手前に設営された。レース当日も風が強く、選手たちのことを考えるとこの判断は結果として正しかったと思う。
ただ、いちロードレースファンとしては残念であった。モン・ヴァントゥは序盤と終盤の勾配が辛く、終盤になると標高、風、暑さも加わり、サバイバル感が満載になるからである。
高地出身で山ではフルームに匹敵するといわれるキンタナにとっても不運だったかもしれない。
またこの裁定は、①頂上付近で陣取っていた観客が下山したことによる中腹部の混雑②フィニッシュ直前にしか柵がなく、ただでさえ狭いアタックポイントが観客によってさらに狭まるという現象を引き起こすことになった。
混雑
モン・ヴァントゥは登り口からすでに沿道に観客いっぱい。進むにつれ熱気とともに沿道両脇の観客の距離も近づいていった。それ自体はロードレースによくあることだ。しかしこの日に限ってはそれが過剰すぎた。
ステージ争い
レースは①ステージ狙いのクライマー、②中間スプリント狙いのスプリンターによる大規模な逃げ集団が形成され、メイン集団とは一時18分を超えるまでに広がった。これによって完全にステージ争いと総合争いが分離した。
ステージはね…結局ベルギー人ふたりの争いになり、デヘントがステージを制し、山岳賞も獲った。
総合争い
問題は総合争い。
ついにキンタナが今大会初のアタックをかけるも、スカイの牙城は崩せず。
フルームはいつもどおりのゾンビ走り。誰よりも苦しそう。からのキレ抜群のアタック。反応できたのはポート、キンタナのみ。さらに加速するフルームにキンタナはついていけず。メインからモレマが飛び出しフルーム、ポートグループに追いつく。
3人が協調して集団からタイム差を稼ぎだした。
まさにそのときであった。
事故
ポートがカメラバイクと衝突し、3人落車。
カメラバイクは道路を観客に塞がれて急停止したのだった。
カメラバイクに道が塞がれるなんて、そんなこと選手たちは想像外。加速を始めていたポートは止まっているカメラバイクに気付くことができても、止まれないし、スペースがなくて避けようもない。
ポート、モレマはすぐにリスタートできたが、フルームは後続のバイクに自転車をひかれてフレームが壊れてしまったため足止めを食らうことに。
そのままゴールしようとしたのか、代車を供給するニュートラルカーを探すためなのか、フルームは坂道を自転車なしで疾走。
マイヨジョーヌがモン・ヴァントゥをランニングするという信じられない映像。
Froome à pieds dans la montée - Étape 12 (Montpellier / Mont Ventoux) - Tour de France 2016
Froome forced to run on Mont Ventoux after motorbike destroys his bike
この衝撃的な映像は繰り返し流された。
フルームは少し走って代車を手に入れるがフィットせず次々とライバルに抜かれていく。
そして2台目の代車に乗ってゴールする頃にはメイン集団より1分以上の遅れ。
もはや勝負どころではない異常事態。
フルームが最大のライバルともいえそうなキンタナに勝つという印象的なステージだったのに台無しである。
救済
結果的にこの日被害を被った多くの選手たちは救済された。
ポートとフルームは落車した3人のうち最もタイムの早かったモレマと同タイム扱い。
キンタナはメイン集団からも7秒遅れる散々な結果であったが、これも救済されメイン集団と同タイムに。
結果フルームはメイン集団から19秒のリード。前日に12秒稼いだので、マイヨジョーヌキープ&キンタナと54秒差まで広がった。
感想
はじめは観客に自転車を奪われてそれを追っているのかと思った。フランスではフルームに批判的な声が大きいし。
自転車選手特有の細長い体で疾走する姿…そしてそれを熱狂的に見つめる観客、それをうつすカメラ。とてもこの世のものとは思えなかったな…。
これまでも選手と観客の距離が近すぎることが問題になっていて、つい最近もフルームが邪魔な観客を殴って罰金をとられるという事件もあった。
熱狂的な観客がいたほうが絵としても映えるし、俺も好き。でも観客との接触がいかにレースをつまらなくするかを考えると、柵は必要だろうなと思う。
今大会フルームの株が急上昇している。走ってまでゴールしようとする勝ちへのこだわり、下りアタック、平坦アタック、TT力。素直にかっこいいと思う。
なお衝撃の1日はこれだけで終わらず、この夜、ニースにてテロ事件が発生。
ツール史、フランス史にとっても忘れられない1日になった。