Amazarashi「世界収束二一一六」
感想、考察。
全体的に暗い内容だったなと。愚痴って愚痴ってたまにかわいい本心がみえて、そんな内容。身近なことを歌っているんだけど、最終的にスケールの大きな着地をしてる。元から地元(青森)愛色が強かったが、今作ではさらにその思いを増している。資本主義が嫌いなマイルドヤンキー的な感じも。
厭世的というか、厭人思想を磨いていて、とことん卑下している。でも根底は人が大好きで、だから頑張ろうよ!ということなんだろう。前回のアルバムより愚痴が増え説教が減った感じ。愚痴は共感できるものが多く、それを感情いっぱいに歌うものだから、私の愚痴も一緒に吐き出してくれているかのよう。
嫌なニュースばかりで耳を塞いでいたら
~花は誰かの死体に咲く~
とあるように、最近特にそういうのが多かったから昔の嫌な記憶とリンクしたのかな??Amazarashiはそこそこ名が知られてきたバンドだが、昔は特にAmazarashi結成前の秋田ひろむはそれはもう苦労したようで、今回のアルバムはその頃の苦しみをそのまんましたためた曲もある。
1,タクシードライバー
聞く前はバンドの雰囲気と曲名から映画のタクシードライバーをイメージしてた。
なんてことないそこらのタクシードライバーをテーマにした曲だった。正確には「タクシードライバーに救いを求める歌」かな?自らの生活感に根ざした現実感のある哲学を持つタクシードライバーほど説得力を持つ人はいない。先がみえない未来も、背負っている過去もすべてタクシードライバーさんなんとかして><って内容。
ようはただ愚痴ってる曲なんだけど、疾走感、解放感があってすごく聴きやすい。完全に人任せではなくて自分を鼓舞しているようでもある。
2,多数決
先行配信されていた曲のうちの1つ。多様性を認めてくれという思いをこめて作られていて「多数決」を批判している。人種やジェンダーのようなお決まりの多様性ではなく、田舎と都会のように格差が明確なのにあまり顕著に取り上げられないテーマを取り上げている。
強い者が弱きを挫いて溜飲を下げ 都会は田舎をゴミ捨て場だと思ってる
内容よりも必死に訴えかけるところに心を打たれる。
嫌味なほどに綺麗に「いいよ もういいよ」と歌うところもいいね。
PVで先行配信されている曲ってアルバム買う前に聴きこんでしまうから、インパクトが薄れてアルバム通しで聴いても印象に残らないんだよね。
3,季節は次々死んでいく
古参ファン「アニメED…笑」
世間の評価「代表曲」
Youtubeの再生回数がまもなく1600万回というとんでもないことになっている。その他の曲が数十万~百万がやっとだというのだからこの曲の注目度・人気度は突出している。東京喰種√AのED。やはりアニメ効果はすごい。アニメは一期を完走してそれほど惹かれなかったが、この曲を聞くために二期も完走した。エンドカードが毎回変わって、それだけでも観る価値があった。
Amazarashiには珍しくフワっとした歌詞。それが解釈の自由を生んで多くの人に受け入れられたんだと思う。アニメにもマッチしてたし。
24時間限定で先行配信される直前のドキドキ感は忘れられない。尖りすぎてはアニメファンから不評を買うし、あまりに丸すぎると従来のファンから不評を買う。絶妙なラインだったね。
比較的クセが少なく、聴きやすい部類に入る。それだけに引っかかるものが少なく、正直あんまり聴いてない。まぁ新譜じゃないしもう十分聴いたってのもあるだろうけど。音楽にも寿命があるみたいな記事をどこかで読んだ記憶がある。まさにそれかなー。昔はドハマりしてたけど、半年?1年?たって熱が冷めたという。
4,分岐点
ポエトリーリーディングの間奏曲。今まさに決断を迫られる焦燥感をビリビリと感じる。穏やかではないね。それが今作の色か。
5,百年経ったら
アルバムタイトルは2116、つまり100年後を指している。そういう意味でこの曲は実質アルバムの表題曲だといえる。Amazarashiの描く100年後の未来は人類にとっては都合の悪い世界になっていて、人類は地球を出ていく。そして「僕」はそれに手を振ったとある。それは「僕」が人類よりも地球(自然)を選んだということだ。これまでも自然を愛する感じは匂わせていたが、あぁそこまでガチなんだ、って。
あるいは、そんな人類にはついていけませんよという意思表示かもしれない。
穏やかな気持ちでボーッと聴いてると最後アガってビックリする。優しい曲調なんだけど気持ちこもった歌声も印象的。
6,ライフイズビューティフル
気持ちよく酔った男が「あぁなんて人生は素晴らしいんだ!」と幸福感に浸った状態で書いたような一曲。
見ろよもう朝日が昇ってきた
人生は美しい
冷静に考えると とても笑える状況。飾り気のない言葉で綴られていて共感できるし温かい気持ちになれる。のほほんとしているだけでなく、力強い一節もある。
音楽の寿命の話の続きだけど、こういう普遍的なテーマで広い受け皿を持った曲のほうが今後多く聴くかもしれない。個人的趣向からいってお気に入りでローテーションする曲ではないんだけど、プレイヤーにはいれておきたい曲だ。
暗い曲が多い今作で最も毒気が少なく癒やされる曲。
わいは今も歌っているんだ 暗い歌ばかり歌いやがってと人は言うが
サーセン。
7,吐きそうだ
あんなに気持ちよさそうだったのが一転して「吐きそうだ」。実際二日酔いのときにできた曲らしい。タイトルだけだとちょっとした間奏曲のように思えるが、5分超の力作である。個人的にこのアルバムのナンバーワン。
「後悔はない」という後悔を 引きずり重い足を歩かせる
まだ少し酔いが残っていて、野暮なことを考えてみた感じ。少し前にイグノーベル賞で「便意を我慢しているときは頭が冴える」というのがあった。それに似たようなものかな。二日酔いの気持ち悪さに意識をそらそうとすればするほど頭が冴えていって、人生のような深いテーマについても頭が働く、みたいな。
ポエトリーリーディング調の歌い方が「頭が冴えて言葉が次から次へと出る感じ」のようでマッチしている。
今作は攻撃的な曲もあれば悲観的な曲もある。そのどちらでもない等身大の歌詞のこの曲の存在感は大きい。軸のような感じ。サラッと始まりサラッと終わる曲なんだけど、初視聴のときアルバム一周して一番耳に残ったのはこの曲だった。
二日酔いなんて大したことない。だけどその苦しみは本物だ。苦しむ人間は自らを取り繕う余裕なんてないはずである。私はどちらかというとそういう人を介抱することのほうが多いのだけど、そういう人らの何気ない一言が不意に刺さることがある。それと同じ感じで、グサグサと心に刺さるフレーズが矢継ぎ早にくるのだから、そりゃ心が揺さぶられるよ。
どうでもいいがファン同士の交流で「好きな曲なに?」「吐きそうだ」のやり取りがうまくいくのか心配である。
8,しらふ
完全に酔いが醒めたら現実が待っていた。
もう無理かもね 祈る気力もない流星 あの日期待した僕の才能、下方修正
間奏曲といえなくもないが、ナタリーの言葉を借りると朗読劇のような感じ。悲しいほどにリアル。だけども鬱屈してるだけでないのがいい。最後には現実の雨を受ける覚悟を決め、次の曲に繋がる。
9,スピードと摩擦
アニメタイアップ第二弾。ノイタミナ「乱歩奇譚」のOP。アニメを意識したのか文学的な歌詞が特徴。季節は~と比べて歌詞の解釈の余地が少なかったと思われる。そもそも解釈の自由どころか全く捉えようのない歌詞である。そのせいか季節~より評判悪いんだけど、私はこっちのほうが好き。
M8からの流れで聞くとイントロが映える。
生き急いでいる感がすごい。
10,エンディングテーマ
アップテンポから一転してバラード。最後の曲っぽい感じがするがもう2曲だけ続くんじゃ。
こんなに空が青いのは ちょっと勿体ないな 少し曇ってるくらいの方が 丁度いいよな
最初の一節。足りない足りないといって、いざ満たされると勿体ないという。不足しているからこそ渇望する気持ちを生み、それが動機となり、生きている充実感へ繋がる。ならもう余命が”足りない”死に際では?というのがこの曲の主旨。当然素晴らしいなんて気持ちにはならず「生きたい生きたい」となる。
死を意識することで生きることを強く実感する。この負を生に変換(浄化)することこそ、うまく生きていくコツなのかもしれない。…と私は解釈をしている。
死に際を描いた曲なのに、とても前向き。
11,花は誰かの死体に咲く
初めはこれを表題曲にしようとしていたらしい。 アルバムのクライマックスであり、ダイジェストでもある。
曲名から東日本大震災チャリティーソングの「花は咲く」を思い浮かべた。実際聴いてみると、近いものであると思う。どっちも鎮魂歌みたいだし。
不慮の死を悼まれて直接面識がない人たちからたくさんの花を手向けられる人もいれば、誰にも知られず首をくくる人もいる。いくら飾ったって、汚くたって誰の死体にも等しく花が咲きますよ…という主旨かな。
「みな立派な死に様です」って孤独な死を悼んだ曲ではなくて、「みな土に還る」のだから同じようなもん、って曲だと思う。
なかば諦め、なかば吹っ切れ。
それが活力となる。前曲と通じるポジティブさ。
虚しさに生きてその最中に笑えよ さよならは一瞬だその最中に歌えよ
うん、これはニヒリズムだ。
生を受け入れるなら人生の負の部分も受け入れなければならなくなる。
良い人も悪い人もみな等しく土に還る、収束していく。これこそ今作のテーマだろう。その収束する未来を予見したのがラストトラック。
12,収束
秋田ひろむが予見する未来は人類が朽ちて自然が栄える地球だった。人類がどうなっちまっても、自然は生き生きと呼吸し続ける。
Amazarashiのアルバムっていつも構成がしっかりとしているんだけど、特に終わりが素晴らしいんだよね。「祭りのあと」のような雰囲気がいい。「あんたへ」の時は他の曲はピンとこなかったけど「あとがき」は気に入って何度もリピートしてた。この曲も例に漏れず そうで、特にこの曲はすべてを統括するような終わりだから、雰囲気もさることながら爽快さがあり、最高のカタルシスを得られる。
結局結末はこうなのだから…
このフレーズは悲観的にも楽観的にも受け止められる。このアルバムでは後者の受け止め方だった。
生を受け入れるなら、美しい部分だけでなく醜い部分も受け入れなければならなくなる。うまく昇華してうまく生きましょうということだ。